大晦日。
パンデミックインフルエンザ情報は国内外、特に気になる情報は流れていない。
インド、パキスタンでの流行拡大が報じられているが、数値としてはそれほど大きくはない。米国のミネソタでは死者が先週1人出たと言うが、現在はインフルエンザ様疾患で外来を訪れる患者数は極めて少ないとされる。
日本では先々週の定点情報を最後に本年度は流行情報は発表されない。
地域の保健所とマスコミが連携して、もう少し流行情報を社会に提供すべきと思うが、流行が下火になってくるとニュース性がないことと、一般市民の関心が薄れることが加わって、情報は加速度的に減少するようだ。
しかし保健行政的には、健康危機管理の観点から考えると、一般市民へ情報の提供は不可欠で、それは公衆衛生学的手法の応用現場である地域保健所の義務でもある。
現在、各地域の関連機関のウエブを見ていると、保健所および地域の保健センターの役割が改めて問われるような気がする。
海外の状況は、WHOもコメントしているように北米とヨーロッパの多くでA/H1N1の感染者数は減少している。ほぼ例年の季節性インフルエンザの発生数、またはそれ以下の状況となっている地域が多い。
何度も繰り返しているが、流行状況と気温の高低には関連性がない。
むしろ、このA/H1N1ウイルスの特性として、環境気温が20℃台の状況が感染性を高める傾向にあるようだ。一般的にインフルエンザは、冬期間の低気温化で流行すると考えられてきた。それが”気温伝説”化したように思うが、赤道近くの、季節が明確に区分されない熱帯地域では、インフルエンザはいつでも発生しているようだ。香港もそれに近い。
確かにインフルエンザウイルスは飛沫物と一緒に体外に出た場合、気温が低い程長生きする。零度前後なら相当な期間生きているようだ。それが20℃を超えると短時間で死ぬ。
そう考えると寒い冬に流行する理由が分かるような気がするが、飛沫物を介した接触感染がそれほど主となっていないインフルエンザウイルスのタイプなら、そのような理由は感染性には無関係かも知れない。RSウイルス等の冬期間の風邪の原因ウイルスの場合は、そうした飛沫物質を介した接触感染が多いことが知られている。
インフルエンザウイルスの”生態”は分かっていない部分が多い。単に”気温伝説”で、その感染力を語るのは、あまり根拠のない一般論に過ぎないかも知れない。
A/H1N1インフルエンザの今後の行く末を論じる報告も多い。
昨日更新されたヨーロッパCDCの週報で、1968年の香港インフルエンザで第2波が強大であった理由を論じている。
なお1957年のアジアインフルエンザでは、第2波は第1波よりも遙かに弱小だったようだ。
下図は、英国における香港インフルエンザ流行推移を表している。1968年の夏頃に現れたH3N2インフルエンザウイルスは翌年1969年の2月をピークに流行したが、その程度は例年の季節性インフルエンザと同じレベルであったが、その年の冬には2倍の感染者数を出す大流行になった。その原因はウイルスの感染率の高まりとされる。なお波の1番目は1968年初冬の季節性インフルエンザである。
香港インフルエンザの場合と、現在のA/H1N1インフルエンザの流行パターンは明らかに異なる。A/H1N1の秋から流行した第2波は、通常の季節性インフルエンザの感染者数の数倍は発生している。
参考までに米国のグラフを示すが、カナダも類似である。日本でも同じであるが、日本の場合は明確な第1波はない。
米国における2007年と2009年の初冬の流行ピークは例年の状況を表し、2008年の初冬の流行は、香港型ブリスベン株の大流行を表している。A/H1N1の、この秋の第2波はそのブリスベン大流行以上であった。
こうした状況を見ると、A/H1N1インフルエンザの特性は、1968年の香港H3N2インフルエンザとは明らかに異なる。1968年の香港インフルエンザの第1波ではそれほど多くの人が感染してなく、集団免役の獲得は小規模だったと推定される。
A/H1N1が来秋に流行することは明らかと思うが、ただ集団免役が相当獲得されていることと、今後ワクチン接種が進むと、それほどの流行波とはならないと推定される。
フランス保健省がA/H1N1感染者数の推定値を発表した。
初期医療機関におけるサーベイランス結果等から推定している。
フランス国内とコルシカ島のフランス人(人口6240万人)の中で、790万から1480万人が感染したと推定。13~24%の国民が感染済みと推定している。
一方、ワクチン接種率は330万人とされ(予想外に少ない!)、この数を既感染者数に加えると、1120万~1810万人のフランス人がH1N1ウイルスに免疫になっていると考えられる。推定値は人口の18%~29%(中央値23%)。
日本では感染者数が大体1500万人、ワクチン接種者数も大体1500万人のようだから、免疫を獲得した層は3000万人となる。人口の23%であり、偶然にもフランスと類似だ。(しかしワクチン接種数は、もしかしたら単に全国に配布したワクチン数からも知れない。10MLバイアルは相当量が残破棄されているという話もあるから、そうなると実際の接種者数は1000万人を下回っているのか知れない?)。
ただしこれらの数値は全年齢層の平均である。易感染層の20歳以下に絞ると、多分この数値は倍以上になる可能性がある。すなわち50~60%。それは各国とも同じ状況と考えられる。
こうした理由からも、このA/H1N1インフルエンザが来秋に猛烈な波となった押し寄せてくることは考えられないと、現在、管理人は考えている。
また日本の場合、新年明けからの冬季間に、どれだけの発生があるかも疑問に思っている。
多分受験生達の間で(浪人生も含めて)、それほどの発生は見ないと考えている。
下図は札幌市における年齢別感染者数であるが、ハイティーンでの感染者数はピーク時の42週でも少なく、さらに現在では相当減少している。今後大学受験者層での感染者が多発するとは考えられない。なおグラフは10歳~19歳は5年齢層毎、それ以上は10年齢層毎に表しているから、1歳毎の数値は、各層をそれぞれ5または10で除すことになる。
流行の小康状態継続が確認されるのは学校が再開される1月中旬ではあるが、その前に米国やカナダの情報も参考になりそうだ。もっともカナダ保健省は49週(12月6日~12月12日)以後、さぼって更新してない。クリスマス休暇に入ったのだろう。もっとも流行は、平年のインフルエンザの流行閾値を下回ってしまったから、担当部署の職員も安心して家族で休暇に入ったのかも知れない。
午後からいくつかの気になる情報が流れた。
北朝鮮政府が国内にH1N1インフルエンザ警報を発して、感染者の治療が何よりも優先されなければならないと緊急通達したようだ。ソウルに基盤を置く仏教徒の北朝鮮救援団体の{良き友}が発表した。ウオールストリート・ジャーナルやワシントンポスト等が取り上げている。これまでこのような通達は2回しか発信されたことはなく、1回目は朝鮮戦争の際の重症傷病兵の治療、2回目は2002年に韓国との間でトラブルが起きたときの、やはり重症傷病兵の治療に対してであったとされる。
北朝鮮で相当な感染者と死者が出ている可能性がある。感染者の多くは栄養失調の子供達であることが懸念される。韓国から12月18日に送られたタミフルとリレンザは有効に使用されているのだろうか?
WHO他の国際的支援団体も介入しているとは思うが、非常に気になる。WHO声明には出ていない。
世界的医学雑誌である{ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(New.Engl.J.Med)}に2編のH1N1関連論文が発表された。
一つはH1N1インフルエンザの 家庭内感染に関する研究で、これまでのパンデミック、及び季節性インフルエンザに比較して感染率は非常に低いと結論されている。感染者の出た216家庭の中で27%の家庭でしか二次感染者が出ていなく、二次感染者の多くは小児と十代の年齢層であったようだ。感染者が出た家庭の全家族員600人中で感染したのは13%に過ぎなく、これは香港インフルエンザ、アジアインフルエンザ(14~20%)、および季節性インフルエンザ(10~40%)に比較して明らかに低いとされる。簡単に言えば家庭内で感染者が出た場合、他の家族が感染する確率は八分の一に過ぎないと言える。また感染は小児の方が成人の倍の頻度で起き、特に4歳以下の子供は家庭での感染率が高いようだ。
日本国内でも家庭内感染は非常に低いと思うが、調査報告は未だ出ていないと思う。
もう一つは4月から5月に発生した ニューヨークの高校内における集団感染の詳細である。ニューヨーク市保健局がまとめている。高校内での感染者1からの感染率は 3.3人とされ(3.3人へうつす)、非常に学校内での感染率は高かったとされる。
神戸の高校での分析は発表されていたのだろうか?管理人は分からないが。
上記2編の研究論文の意味することを簡単に説明すると;
易感染層が密に集合する環境下ではA/H1N1ウイルスの感染率が高いが、成人の比率が高い小さな集団で、それほど密に接触する環境でなければ感染率は低い。そうした意味でも、このA/H1N1感染は、明らかに飛沫感染が中心と考えられる。ウイルス感染が続いている間は、易感染層が密な集団を作ることは避けた方が良いと思われる。個々の間隔が2メートル離れた状況での集会は比較的安全と思われるし、また易感染層以外での集団形成による感染の危険性は極めて低いと考えられる。
キエフからウクライナ情報が発信された。
インフルエンザおよびインフルエンザ様疾患での死者数が増えているという。特にこの24時間での感染者数が多いという。また24時間以内に18人が死亡している。
少々心配な状況ではあるが、致死率を計算すると感染者総数372万2千人であるから、0.018%となる。この値は米国並みである。人口は約3700万人。
いったん治まったかに見えたが、また流行がぶり返したのだろうか?
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